海は生命発生の源。多種多様な生物が生息しております。
本日は海水魚の擬態について、少しだけお話しさせていただきます。
3枚目の画像が袋詰めで申し訳ないのですが、この4枚の画像には2種類の魚が写っています。
上の2枚が「ニセクロスジギンポ」、下の2枚が「ホンソメワケベラ」になります。いずれも私がシュノーケリングで採集した個体になりますが、水中では魚が完全に停止してくれないので確実な区別が付きません。
あまり逃げ回らずに「楽に採れたな」と思う時は、大体「ニセクロスジギンポ」です。
まず「ホンソメワケベラ」ですが、英語でクリーナーフィッシュと呼ばれるベラの仲間です。中国では「医生魚」と呼ばれています。他の魚に付いている寄生虫等を(普通のエサも食べます)食べて生活をしています。独特なカラーリングと、上下のダンスをしているような泳ぎ方で、クリーナーフィッシュである事を他の魚にアピールします。
「ホンソメワケベラ」が近付くと、他の魚たちは口を大きく広げて口の中を掃除してもらったり、各ヒレをピンと広げて「寄生虫を取って!」とアピールをします。
ハタなどの大型肉食魚も、口を開けて掃除をしてもらいますが、基本的にはクリーナーフィッシュであるこの魚を食べたりはしません(水槽飼育ではこの限りではありません)。
そんな「ホンソメワケベラ」に擬態しているのが「ニセクロスジギンポ」です。
口が若干ですが下つきになっていて、上下に2本ずつ長い牙を持っています。人間でも咬まれると血が出る位です。この魚は「スケールイーター」と呼ばれ、「ホンソメワケベラ」の振りをして他の魚に近付き、素早く体表に噛み付いてウロコを剝がして食べてしまいます。南米の淡水魚、カラシンの仲間も「スケールイーター」がおりますが、魚のウロコは栄養に富んでいるようです。
前述の通り、この魚は水中では区別を付け辛いので、捕まえた後に陸上でガッカリします。
このように善人の振りをして、自分の目的を達成する擬態は分かりやすいです。アリグモがアリの振りをして、アリを食べてしまったりするのと同じですね。
※現在、この説は「蜂の仲間であるアリに擬態をして自らの身を守っている」と言う説が有力とされて覆されていますが、ニセクロスジギンポの擬態の説明のために、古い説をあえて記載させて頂きました。
トラカミキリが危険な蜂に擬態をして、自分の身を守ったりするのも分かりやすいです。
しかし、理由が解明されていない擬態もあります。以下の魚は私の採集魚ではなく、輸入された魚になります。
上の画像が「ヘラルドコガネヤッコ」。下の画像が「クログチニザ」になります。
「ヘラルドコガネヤッコ」が黄色い体色を生涯貫くのに対し、「クログチニザ」は成長すると黄褐色の少し地味な体色に変化します。この「クログチニザ」は、画像はありませんが「ナメラヤッコ」に擬態する個体もおります。
「クログチニザ」がアブラヤッコ属に擬態する理由はよくわかっておりません。アブラヤッコ属が含まれるキンチャクダイ科の魚には、エラブタの下端に鋭いトゲがありますが、防御の為のトゲであり、毒があるわけでもないので、擬態をして安全を確保できるとは思えません。
また、ニザダイの仲間は英語で「サージョン(外科医)フィッシュ」と呼ばれ、尾筒に折り畳んで隠せる鋭いトゲを持っています。このトゲはどちらかと言うと、同種、他種を含めた攻撃用のトゲになります(自論ですけど)。
ある魚類学者は、アブラヤッコ属の魚は警戒心が強く、すぐに隠れてなかなか捕食出来ないので、捕食者に諦めさせるために擬態しているのではないか?という説を唱えています。
他に説明できる説が思いつかないので、この説が有力なんじゃないかな?と思います。生き物は謎が多くて興味が尽きません。
※ ニザダイの仲間の気性の荒さについては、機会があればお話ししたいと思います。